ボート好きなら誰もが知る特別な地、宝石のようなイタリアの港街 “Portofino”、その名を冠したフェラーリが誕生した。
大成功したモデル「カリフォルニア」を継ぐ、V8 オープントップの 2+2シーターGT。
今年2月19日のジャパンプレミアで登壇したフェラーリ極東・中東エリア統括CEOのディーター・クネヒテル氏をして、
「広い海に出て髪を海風になびかせているよう」と言わしめたドライビングフィール。
その国際試乗会に招かれたモータージャーナリスト 西川淳 氏がレポートする。





 ジェノバからクルマであれば一時間で辿りつく。リグーリア海に小さく突き出た半島の先に位置する “ポルトフィーノ” は、イタリア人が最も憧れるハーバーリゾートだ。ボート乗りなら、自前のフネで乗り付けてみたい港の一つだろう。
 そんな街の名を冠したフェラーリの新型車がデビューした。超有名な街の名前を堂々と車名にするあたり、さすがはフェラーリというべきだろう。これまでにも、イタリア、マラネロ、モデナ、フィオラノ、など、フェラーリに関連性のあるイタリアの地名は使ってきたし、それこそ、先代モデルにあたるカリフォルニアや、過去にはアメリカやメキシコといった異国の名前も使っていた。そのこと自体が格好いいと思えるかどうかは、はなはだ主観的で、もっと言うと、言語と文化の素地によって変わってくるだろう。要するに、格好いいかどうかは別にして、“ナルホドナ” と思えれば、それでいい。

 ポルトフィーノは、イタリア人が最も憧れる場所のひとつ。なるほど、理由はそれで十分だろう。
 カリフォルニアシリーズのフルモデルチェンジモデルである。カリフォルニアは、2008年に発表された、フェラーリとしては初めてフロントにV8エンジンを積んだリア駆動の2+2の4シーターグランツーリズモ(GT)で、リトラクタブルハードトップ(RHT)を最大の特徴としていた。
 それまでの跳ね馬にはなかったキャラクターの持ち主で、価格的にはマラネッロ入門機の役割も果たしたため、他ブランド、特にドイツ勢高性能GTからの乗り換えユーザーが大いに増えた。カリフォルニアおよび後期モデルのカリフォルニアTあわせて、実に顧客の7割がマラネッロにとっての新規ユーザーだったという。

 そんなカリフォルニアの後継モデルを開発するにあたって、基本コンセプト=V8フロントエンジンの2+2GTでRHTを装備する、を継承すること以外は、まったくの白紙から企画はスタートしたというのがマラネッロの主張だ。
 なるほど、内外装のデザインはもちろんのこと、ボディ骨格から、シャシー&サスペンションの設計、電子制御システム、RHTまで、すべてが新設計である。パワートレーンの構成こそカリフォルニアT用と同じ形式=F154型 3.9リットル直噴V8ツインターボ+7速DCTとしているが、エンジン、ミッションともに大幅な改良が施されており、最高出力はついに大台の600cvとなって、フルモデルチェンジにふさわしい内容になっている。ちなみに、パワートレーンのフルチェンジは、車体のフルモデルチェンジと同時ではなく、マイナーチェンジ時に行なうというのが最近のマラネッロの常である。




 ジャパンプレミアが開催されたわずか4日後に、筆者はイタリア半島の付け根、バーリへと飛んだ。ポルトフィーノの国際試乗会に出席するためだ。
 近郊の海にほど近いリゾートホテルの玄関に、10台ほどのポルトフィーノが待機していた。なかでも、新色のロッソ・ポルトフィーノ(赤メタリック)が目を惹く。メタリック片が極めて細かく、日向と日陰でまるで違う発色をみせている。陽の当たる場所では、いかにも跳ね馬らしく明るく輝く赤で、陰るとしっとりとしたダークレッドに見えるのだった。
 こんどのカリフォルニア後継車は、とにかく格好いい。発表直後からそんな評判が大いに立った。最大の要因は、美しくなったクーペスタイルだ。特に、真横から見ると、カリフォルニアとは違って、完璧なロングノーズ&ショートデッキをみせてくれる。さらに、前後のライトデザインの妙で、より幅広く、低く見える。12気筒のフラッグシップモデルに遜色のない出で立ちだ。

 インテリアも最近のフェラーリデザインのトレンドに沿ったスタイルに刷新された。伝統的なT型フォルムを踏襲したダッシュボードには大型モニターも備わり、最新のインフォテイメントシステムへとアクセスできる。ステアリングホイールもニューデザイン。
 RHTは時速40キロまでなら走行中の操作も可能だが、走り出す前に開ける。開閉に要する時間は従来と変わらず14秒程度。動作は、とにかく静かで、軽い。新開発のウィンドウディフレクターも装着した。垂直に立ち上がるのではなく、ちょっと前屈みになっていて、横からみるとフォルムがまるでタルガトップモデルのように見えた。




 ゆっくりと走り出す。カリフォルニアに比べて動きが軽快だ。前アシは両手とダイレクトに繋がり、左右にシャープなステップを踏む。乗り手の下半身との一体感もハンパない。フルオープンであってもボディの強さをはっきりと感じた。カリフォルニアTに比べて、80キロ軽く、ボディ剛性も上がって、さらにパワーアップもしたのだから、そう感じるのも当然だろう。
 硬めのライドフィールであっても、乗り心地は悪くない。ボディが強いから、アシが自分の仕事を完璧にこなす。路面からのショックもイッパツでいなしてくれる。前後のサイドウィンドウさえ上げて走れば、後頭部への風の巻き込みはほとんどない。これなら、晴れた日には必ずオープンにして乗りたい。頭頂の髪を風が少しだけなでていた。

 ライドモードをコンフォートからスポーツへ切り替えても、乗り易いという印象はまるで変わらなかった。加速フィールは、まるで大排気量NAのよう。ターボラグはほとんどなく、かといって、ターボカーに特有の急激なトルクの立ち上がりもない。強大なパワーとトルクがドライバーの支配下に完全におかれているように思えるから、ついつい右足にも力が入る。7千回転以上までしっかり引っ張ってシフトアップすれば、正に電光石火、すさまじい音を放ちつつ、前のめり感をともなって、ギアが上段へとあがった。
 新しい電制バルブフラップのおかげで、エグゾーストサウンドの盛り上がりも力と回転に連動したリニアな線を描く。ミドシップの488シリーズのように、いきなりどこかの回転数でボリュームを上げるような激しさはない。低回転域でこそ輪郭がぼやけた野暮な音を立てるけれど、回せば十分にフェラーリらしい官能サウンドを轟かせる。




 世界遺産の白い街、アルベロベッロでランチを楽しんだのち、近くに見つけておいた頃合いのワインディングロードを目指して、繰り出した。走りながら、クーペに。するとどうだ。完成度が高過ぎるのだろう。クーペで全開には、“速い”という実感がない。けれども速度計を見ると、とんでもないスピード領域に達している。これには正直、驚いた。速度感覚というこれまでの経験値が、役に立たないのだ。




 楽しいのはもちろん、コーナーワークである。アクセルを踏みすぎると、簡単にオシリが滑りだす。けれども、心配は無用。電子制御システムがそれ以上の被害の拡大を決して許さない。ちょっとした修正要請を出してドライバーを気持ちよく反応させたあとは、出しゃばり過ぎず、上手に姿勢を立て直してくれる。だから、一瞬ヒヤリとした乗り手であっても、また気分よく次のコーナーに向かって踏んでいける。
 ポルトフィーノは、あくまでもよくできたGTカーだとマラネッロは言う。荷室の使い勝手はよくなったし、+2の後席もわずかに広がった。乗り心地もいい。直進時の安心感も十分だ。
 けれども、その本質はやはり、一流のスポーツカーなのだった。 P.B.



FERRARI Portofino
全長 4,586 mm
全幅 1,938 mm
全高 1,318 mm
ホイールベース 2,670 mm
車両重量 1,664 kg
エンジン型式 V型8気筒 ターボ
総排気量 3,855 cc
ボア×ストローク 86.5 mm × 82 mm
最高出力 600 PS(441 kW)/ 7,500 rpm
最大トルク 760 Nm / 3,000 – 5,250 rpm
トランスミッション 7 速 F1 デュアルクラッチ
タイヤ F: 245/35 ZR20 R: 285/35 ZR20
0-100 km/h加速 3.5 s
最高速度 320 km/h
車両本体価格 25,300,000 円
■問い合わせ先 
www.ferrari.com


text: Jun Nishikawa
photo: Ferrari
Perfect BOAT 2018年5月号掲載]/※データは掲載時のものです