アウディのスーパー・スポーツカー、Audi R8が生まれ変わった。2015年春にジュネーブ・モーターショーでワールドプレミアとなった2代目 R8は、初代の成功を引き継ぐべく、デザイン、メカニズムともに正常進化。今回はポルトガルのアルガルヴェ・サーキットで行われた国際試乗会で、その実力を確かめる機会に恵まれた。


 古くからF1参戦や各種モータースポーツにおける輝かしい歴史を持つメルセデス・ベンツやBMWとは異なり、ドイツ・プレミアム御三家の中では後発であるアウディは、そのラインナップにスポーツカー好きの富裕層を満足させるモデルが、かつては存在していなかった。
 もちろん、彼らも1980年代にはクワトロおよびスポーツ・クワトロでWRCを席巻するなど、モータースポーツと無縁だったわけではない。しかし、現在のA4の先祖に当たるAudi 80をベースにしたクーペの高性能バージョンであるクワトロは、ラリー・ファンのハートには響いたものの、ラグジュアリー嗜好の顧客の心を満たすものではなかった。
 しかし、1990年代後半からアウディは攻勢に出る。1998年に初代TTを発売すると、翌1999年にはAudi R8Rでル・マン24時間レースに参戦。初年度にいきなり3位と4位を獲得し、トップ・カテゴリーで競争力があることを証明した。



 2000年以降は、車名を「R8」に改め、世界各地の耐久レースに参戦。ル・マンでは優勝請負人として名を馳せるチーム・ヨーストや郷和道代表率いるチーム郷と共に、2005年までに4勝を挙げ、後継モデルのR10TDIやR15TDI、R18TDI、そして最新のR18e-tronクワトロへと続く、ル・マンで9回優勝という「無敵艦隊アウディ 」の礎となったのである。
 そのR8の車名を継承した市販スーパー・スポーツカーが、Audi R8である。
 2006年にデビューした初代モデルは、アウディがレースカーの開発で培ったテクノロジーがふんだんに盛り込まれた。例えば、アルミニウム合金やマグネシウム合金を多用することで、わずか210kgという軽量なホワイトボディ重量を実現したASF(アウディ・スペース・フレーム)や、電動油圧クラッチを用いて俊敏な変速を可能にした6速 Rトロニック、そしてドライサンプ式オイル潤滑を用いて搭載位置を低め、低重心化を図ったミドシップの4.2リッター V8 FSIエンジンなどだ。

 2009年には5.2リッター V10 FSIエンジン搭載モデルが登場。さらに2010年にはオープンモデルのスパイダーも追加され、大きな注目を集めた。この初代R8は、その近未来的なデザインや精緻な高性能エンジンと電子制御フルタイム4WDによる圧倒的な速さ、そしてスーパー・スポーツカーとして文句なく高い完成度で人気を博し、2014年までの9年間に世界でおよそ2万7,000台を販売した。この成功により、Audi はスーパー・スポーツカー・メーカーとして飛躍を遂げたのである。





 ニューR8のエクステリアは、従来よりも全体的にエッジが立った造形となっているが、ドア後部のサイドブレードが上下2分割となった点など、細かなディテールを除いて、ほとんど変わっていないようにさえ見える。ボディサイズも先代と比較して6mm短く、33mm幅広くなっただけで、ほぼ変化がない。
 インテリアも、メーターパネルがフル液晶のヴァーチャル・コクピットとなり、エアコン操作部が、ロータリースイッチのツマミ上に表示部を備えたものになるなど、未来感がグッと増しているが、フラットボトムのステアリング・ホイールやインパネ、センターコンソール周辺など、基本は先代を踏襲している。もちろん、その質感はレベルアップし、アウディの最新フラッグシップ・スポーツカーに相応しいものとなっている。
 アルミニウム合金を多用するASFのボディは初代と同様だが、2代目はCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)を各部に用い、重量を15%削減しながら、ねじれ剛性を40%も向上させた。また電子制御フルタイム4WDのクワトロ・システムは、従来のパッシブ式ビスカス・カップリングから、アクティブな電動油圧式多板クラッチに置き換えられ、よりきめ細かく前後アクスルの駆動力配分を制御出来るようになっている。

 最も大きく代わったのは、その心臓である。ニューR8は、標準モデルが最高出力397kW(540PS)/7,800rpm、最大トルク540Nm/6,500rpmの5.2リッター V10 FSIエンジンを搭載。より高性能な「R8 V10 Plus」は、こちらも同様に5.2リッター V10 FSIだが、449kW(610PS)/8,250rpmと560Nm/6,500rpmを絞り出す。つまり、V8が消滅し、V10エンジンのみとなったのである。
 初代において、軽さを武器にキレ味鋭い走りを実現していたV8エンジンとMTモデルが継承されなかったことには、やや寂しさを感じる部分もあるが、よりパワフルで、よりスペシャルなモデルが求められる昨今のスーパー・スポーツカー市場の状況を考えると、このマーケティング面での変化は致し方ないのかもしれない。
 しかし、そんなネガティブな心情は、走り出した瞬間に吹き飛んだ。




 ポルトガル南部のファロ空港に到着すると、私は610PSの「R8 V10 Plus」のステアリングを握り、アルガルヴェへ向かった。まず好印象を受けたのは、その快適性の高さだ。高速道路では、可変ダンパーのマグネティック・ライドを備えた前後ダブルウィッシュボーンの足回りがしなやかに動き、非常に滑らかな乗り心地を披露した。一般道に入って荒れた路面に侵入しても、剛性感の高いボディが突き上げをビシッと受け止め、乗員に不快な思いを全くさせないのである。
 ステアリング操作に対するレスポンスも素晴らしく、そして極めて正確である。先代の改良型であるV10エンジンは余裕に溢れ、吹け上がりもすこぶる気持ち良い。シリンダー休止システムが作動して5気筒状態となっても、十分に走れる。ダウンサイジング・エンジン全盛のこの時代に、大排気量の自然吸気V10エンジンが味わえるというのは、贅沢この上ないことだと感じた。
 だが、ニューR8が本領を発揮したのは、やはりサーキットだった。アルガルヴェのコースは、コース幅は広いがアップダウンやブラインドコーナーが多く、なかなかテクニカルなのだが、エンジンは素晴らしくパワフルかつコントローラブルで、トランスミッションとのマッチングはケチの付けようがない。ハンドリングも極めて正確でボディバランスも非の打ちようがない。コーナーではリアが滑り出す事もあったが、挙動はとても掴みやすく、またクワトロ・システムが駆動力を最適に制御してくれるため、コントロールを失うような気配はまるでない。カーボン・セラミック・ブレーキもペダルのストロークは短めだが、扱いやすく、サーキット走行には最適なセッティングと感じた。



 また、たとえドライブ・セレクトでコンフォート・モードを選んでいても、抜群の速さを披露する。ダイナミック・モードを選択すれば、足回りが引き締められるほか、パワートレインがパフォーマンス最優先の制御となり、さらにダイナミック・ステアリングのギア比が13:1に固定されることで、極めてダイナミックかつクイックでキレ味鋭い走りが楽しめるのである。
 今回はわずか3ラップしか出来なかったが、スーパー・スポーツカーとして完璧、いや完璧すぎるとさえ言える出来栄えだ。これほどの仕上がりであれば、V10のみに絞ったのも十分に理解出来る。
 日没後には、3,380ユーロでオプション装着出来るレーザー・ヘッドライトによる夜間走行も体験した。600m先まで照射する強力なヘッドライトは、真っ暗なサーキットでも十分に機能した。夜間の一般道や高速道路でも運転が数段楽になることは間違いない。ル・マンで勝つためにはもはや必需品となっているのも納得である。
 なお、ニューR8は、ドイツでは昨秋に既にデリバリー開始となっている。価格は標準モデルの「R8」が16万5,000ユーロ(約2,100万円)、今回試乗した高性能バージョンの「R8 V10 Plus」は18万7,400ユーロ(約2,390万円)となっている。 P.B.


Audi R8 Coupe V10 Plus 5.2 FSI quattro
全長 4,426 mm
全幅 1,940 mm
全高 1,240 mm
ホイールベース 2,650 mm
車両重量 1,630 kg
エンジン型式 V型 10気筒
総排気量 5,204 cc
ボア×ストローク 84.5 × 92.8 mm
最高出力 610 PS(449 kW)/ 8,250 rpm
最大トルク 560 Nm / 6,500 rpm
トランスミッション 7速 S tronic
0 – 100 km/h 3.2 sec
最高速度 330 km/h
タイヤサイズ F: 245/35 R19 R: 295/35 R19
■問い合わせ先 Audi コミュニケーションセンター 
TEL: 0120-598106
http://www.audi.co.jp


text: Yoshihiro Kimura
photo: AUDI AG.
Perfect BOAT 2016年3月号掲載]/※データは掲載時のものです