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BENTLEY-Mulsanne_H1_03創業からもうすぐ100年を迎える英国の老舗ラグジュアリー・スポーツカー・メーカーであるベントレー。その最上級モデルである「ミュルザンヌ」は、単なる高級車を超えて、「英国」という世界観を体現する存在でもある。最大トルク1,000Nmを越える魔法のV8エンジンが奏でる「ミュルザンヌ」の世界を紹介しよう。

Mulsanne_CAPTIONED_030112ロンドンから北に向かって4時間ほど走ると、ベントレー本社のあるクルーに辿り着く。美しい自然に囲まれたエリアだが、同時に鉄道の町としても有名だ。マンチェスターやコベントリーと並んで、イギリスの産業革命において重要な役割を果たした地域でもある。
 趣のあるレンガ作りの建物を基本に、明るい白とガラスで作られたモダーンなファサードが設けられている。英国を代表するラグジュアリー・スポーツカー・メーカーとして、ベントレーがこの地に工場を開いたのは1945年のことだ。約65エーカーもの広大な敷地内には、ファイナル・アッセンブリー・ラインに加えて、エンジンの組み立て、革やウッドをあつかうワークショップもある。さらには、別注品の制作を担当するマリナーの工房も敷地内に備わっている。いわば、ベントレーの聖地である。
 1940年代からずっとベントレーを世に送り出してきた赤レンガ作りの工場は、見た目こそ古風だが、一歩中に足を踏み入れると、最新の生産設備が整っている。ベントレーのセリングポイントのひとつである内外装の選択肢の多さに対応すべく、最新の管理システムが導入される一方で、1919年の創業時から続くモノ作りの精神が受け継がれている。

_01_Hartwell_045 ウッドのワークショップでは、最高品質のウォールナットやバーズアイメイプルの十分なストックが確保されており、そのなかから美しい木目を選んで”ブックマッチ”と呼ばれる左右対称の木目合わせがなされていく。ドアトリムやセンターパネルのカーブに沿って美しい象嵌が施される。さらに、厳選された革のなかから品質の高い部分だけを選んでカットし、熟練の職人によってシートやトリムが縫い上げられていく。生産に要する時間は、ステアリング・ホイールで17時間。ステッチを加えるなら、さらに37時間もの手間ひまがかかる。
 そんな光景を思い起こしながら、ベントレーの最高峰となる「ミュルザンヌ」の運転席に滑りこむ。ベントレーを代表する4ドア・サルーンとして2009年にアメリカ・べブルビーチで開催されたコンクール・デレガンスで発表されたとき、幸いにもその場に居合わせた。ベールを脱いだその姿は、1950年代の名車にインスパイアされたという。エクステリアは、長いノーズからリアエンドに向かってなだらかなラインでつながっており、伸びやかなフォルムでまとめられている。
 キャビン内は、美しい象嵌や手の込んだステッチがまるで美しい工芸品のようだ。5,575×1,925×1,530mmの大ぶりなボディサイズが活かされた設計で、特に後席のゆったりとしたシートに座ったときの居心地の良さは筆舌に尽くしがたい。それでいて、コックピットはほどよく囲まれ感があって、ドライバーズ・カーとして自分で操ってみたくなる。もちろん、ステアリング・ホイールを預けてショーファードリブンを気取るのもいいが、やはり、そこはベントレーの真骨頂である走りを楽しみたいところだ。

2117418442541856607a348 アクセルを踏み込むと、ツインターボ付き6.75L-V8ユニットが目を覚まし、512ps/1,020Nm(!)の強大なパワーを発揮する。4種のドライブ・モードの中から「スポーツ」を選び、パドルシフト付き8速ATを駆使して積極的に操る。ボディサイズから想像するよりキビキビとした身のこなしで、英国のカントリー・ロードのような大きなカーブが続く道を飛ばすのも楽しい。4輪にしっかりとトルクを伝えてくれることもあって、多少の悪天候でも怖いもの知らずだ。
 一方で、最高速296km/h、0-100km/h加速を5.3秒でこなす俊足ぶりを発揮する。高速道路で圧倒的な加速を見せたあと、望みの速度域に達したらクルージングするようなシーンでは、100分の数秒で半分の4気筒を休止して、低燃費運転を心がけることもできる。街乗りでは、「コンフォート」を選んで、変速も8速ATにまかせて、高級車らしいゆったりとした快適性を味わうのもいい。新開発の連続可変ダンピングコントロールを備えるエアサスペンションが、荒れた路面からの入力をしなやかにいなしてくれる。もちろん、一度アクセルを踏み込めば、望むだけのトルクがデリバリーされ、究極のラグジュアリーカーならではの一クラス上の世界を垣間見せてくれる。
 正直なところ、従来の「ミュルザンヌ」でも十分にパワフルなのだが、さらに上を望む人にとっては、先日のパリ・サロンで強化版たる「ミュルザンヌ・スピード」が発表されたことも朗報だろう。V8ツインターボ付きエンジンの排気量は6.75Lのままだが、出力は537ps/1,100Nmまで強化されており、0-100km/h加速は4.9秒まで縮められている。2トンをはるかに越えるボディ重量を持つだけに、これほどの俊足ぶりは想像を絶する。加えて、燃費性能も向上させており、これほどのパワーアップをしたにもかかわらず、13%もの低燃費化に成功している。

Mulsanne_20 当然、内外装も専用の仕様がおごられる。ダーク仕上げのフロントグリル、21インチ・アルミ製ホイールによって迫力を増したエクステリアを持ち、インテリアもそれにふさわしいものへと変更されている。ステンレス製のサイドシル・プレートを越えて運転席に座ると、ダイヤモンドキルト加工のレザー・シートが体を包み込む。足元には、穴あき加工が施されたアルミ製ペダルが備わり、ピアノブラック仕立てのウッドパネルやカーボンファイバー製バーツが目を楽しませる。日本への導入時期は未定だが、最高峰中の最高峰として、上陸する日が待ち望まれる。
 伝統のクラフツマンシップを活かした内外装に、超ド級のスペックを持つパワートレインを内包する「ミュルザンヌ」。ベントレーを、いや、英国を代表する究極の高級車にふさわしい世界観でもある。

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ウッドのウエストレールに取り囲まれたキャビン。ダッシュボードは一枚板のウッドパネルで優雅に彩られる。レザーのカラーパレットはほぼ無限。英国流コーチビルディングの粋が此処にある。フロントに積まれる6.75L-V8ツインターボ・ユニットは、環境性能と走行性能を両立させた新世代ユニット。最高出力512ps/4,200rpm、最大トルク1,020Nm/1,750rpmの大出力が、8速ATを介して後輪に伝えられる。基本設計から半世紀以上を経たエンジンだが、すべてが新開発。このV8ユニットへのこだわりが、ミュルザンヌの神髄なのである。



BENTLEY Mulsanne
全長 5,575 mm
全幅 1,925 mm
全高 1,530 mm
ホイールベース 3,270 mm
車両重量 2,710 kg
エンジン形式 V型8気筒 ツインターボチャージド
総排気量 6,747 cc
ボア×ストローク 104.0 × 99.0 mm
最高出力 512 PS(377 kW)/ 4,200 rpm
最大トルク 1,020 Nm / 1,750 – 3,250 rpm
トランスミッション 8速AT
タイヤサイズ F/R: 265/45ZR20
車両本体価格 34,800,000 円(税込)
■問い合わせ先 ベントレーコール TEL: 0120-97-7797
http://www.bentleymotors.jp


text: Yumi Kawabata
editor: Yumi Kawabata
photo: BENTLEY Motors
Perfect BOAT 2015年1月号掲載]/※データは掲載時のものです