McLaren P1 Bahrain

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史上最強のマクラーレンの呼び名も高い「McLaren P1」の国際試乗会がバーレーンで開催された。ドイツ在住でグローバルで活躍する日・独2人のジャーナリストが、「まるでF1のよう」と絶賛する実力をリポートしよう。

McLaren P1 Bahrain 夜も明けぬ早朝に起き、バーレーンに向かう飛行機に飛び乗る。長時間のフライトをこなした後、さらに現地で40℃もの温度差に絶えなければならなくても、これほどのモンスター・マシンが待っていてくれるのなら、それまでの苦労など吹き飛んでしまう。
 史上最強のマクラーレンこと「McLaren P1」のテストドライブは、あっけないほど普通に始まった。極端に低い漆黒のスーパースポーツカーは、まるで羽のない超音速戦闘機のようだ。ガルウィングドアを跳ね上げ、立派なサイドシルをまたいで、スポーティなドライバーズシートに潜り込む。ミドに積まれるV8エンジンが背後から低く唸りを上げる。思いっきりアクセルを踏み込みたい衝動をこらえる。0-100km/hを2.8秒でこなす実力の持ち主だけに、かなり注意深く踏まなければならない。
 ただし、後方の視界や乗り心地などの快適性については期待してはいけない。センターラインの盛り上がりでも跳ねるほど、足回りは固められている。操舵すれば、瞬時に応答してミリ単位でノーズが動くかのような繊細さだ。
 しかしながら、決してコンペティション・モデル一辺倒ではなく、”日常性”を備えるのが、「McLaren P1」の特徴だ。マクラーレンのテストドライバーであるクリス・グッドウィンが「McLaren 12Cをドーピングしたようだ」というだけあって、フォーミュラ1ほどの特別な運転スキルを必要とはしない。運転免許と、106万7,000ユーロ(日本円での予定価格は9,661万5,000円)の予算がある人なら、カーボンとアルミとマグネシウムとチタンでできたボディに、737psのV8ターボユニットと179psのモーターを組み合わせて総合で916psを発揮するスーパースポーツカーのステアリング・ホイールを握ってドライブすることは、想像以上に容易である。「ニュルンベルクリンクにタイムアタックに行くにあたって、トランスポーターで運ぶ必要はありません」とプロジェクトリーダーのポール・マッケンジーは言う。

McLaren P1 Bahrain テストのスタートが早朝ということもあり、他の宿泊客への配慮から、あえてEモードを選択する。ポルシェ918同様、このスポーツカーも”グリーンの羊の皮”を被っており、ボタン一つで、10kmまでならEV走行に切り替えられる。179psという電気モーターの最大出力は特筆に値しないが、アクセルを踏み込んだ瞬間に260Nmの最大トルクが立ち上がり、シューンという電気ノイズが耳に届く。
 再び、Eボタンを押すと、737ps/720Nmを発揮する3.8L-V8エンジンが目覚め、わずか1,395kgのカーボン・モノコック・ボディを加速する。「McLaren P1」の名の由来であるポールポジションにふさわしい加速に、まるでF1ドライバーになったかのような感慨にひたれる。コーナーの手前でブレーキを踏みこみ、鼻先を曲げてターンインしていく。曙ブレーキと共同開発した鏡面仕上げのセラミックディスク・ブレーキは、McLaren P1の他にはアリアン・ロケットでしか使われていない。そのレスポンスの高さは驚くほど繊細であり、また100km/hからわずか30.2メートルで停止し、300km/hからのブレーキでも6.2秒で静止するだけの性能を兼ね備える。
 技術的なハイライトは、時速300km/hものハイスピードでもエンジンと電気モーターの2つのパワーソースがほどよくハーモナイズして滑らかな加減速ができる点だ。基本的には、V8エンジンからの出力は走行に使い、充電には余剰エネルギーのみが回される。ポルシェ「918」のように、ブレーキ時にエネルギーを回生する手法は取らなかったという。ブレーキのフィーリングが変化することを恐れての判断だ。その分、充電の効率が高く、「クールダウンに一周走れば、バッテリーはフル充電されます。あるいは、4,000rpmで2分間アイドリングでも十分でしょう」とグッドウィンは言う。
 市街地での”飼い慣らし”が終わったところで、バーレーンのF1コースに歩を進める。スタートランについて、レース・モードをオンにする。飼い慣らしたはずだったが、実はこれを境にクルマの性格は大きく変化する。剛性感の高いボディと固められた足回りのコンビネーションは、安定したコーナリング姿勢をもたらす。アクセルベダルを踏み込みたい衝動を抑えつつ、エイスペックについたところでフルスロットルで加速する。その刹那、強烈な加速で身体がシートに押し付けられる。特別に仕立てられたピレリPゼロ・コルサを介して、巨大なトルクが路面に伝わっていく。スピードメーターは6.8秒で200km/hを示し、16.5秒で300km/hに達する。最終的には、タイヤの限界を配慮して、350km/hでリミッターが介入する。

McLaren P1 Bahrain このときボディは5cmも沈み込み、巨大なリアスポイラーは30cmも伸び、ダンピングフォースは300%も高められ、最大で600kgに達するダウンフォースを起こす。ボディがアスファルトに吸引されるかのようにぴったりと密着し、路面からの影響を交わしながら強大なトルクを路面に余ることなく伝えていく。ドライバーの操作とクルマの動きがデジタルで繋がっているかのようで、まるでテレビゲームのような感覚だ。直線の時のみ試すように指示された「DRS=Drag Reduction System」と書かれた青いボタンを押すと、スポイラーが格納され、ダウンフォースは即座に消え、まるでジェット機のように加速する。「IPAS – Instant Power Assist System」なる赤いボタンは、その名の通りブースト機能だ。このボタンを押すと、179psの電気モーターによるブーストが30秒も働き、10万ボルトの電撃が走るように前へと蹴飛ばされる。
 しかしながら、十分な予算のある人がこのクルマを欲しい!と思ったところで指を加えて待つしかない。世界限定375台はすでに売り切れているからだ。ただし、望みはゼロというわけではない。4週間の時間をかけてほぼ手作りで、1日1台しか造らないので、最後の車が出荷されるのは2015年5月と予想される。高額な慰謝料を伴う離婚、株価の暴落といった運命のいたずらによって、ウェイティングリストから繰り上がる可能性もなくはない。倫理的に褒められたことではないが、そんな悪魔のささやきが耳元で聞こえてしまうほど、魅力的なスーパー・スポーツカーである。

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0-100km/h 2.8秒、0-200km/h 6.8秒、0-300km/h 16.5秒という驚異の加速性能。最高速度 350km/hはリミッター介入。出力でブガッティ・ヴェイロンに勝り、ポルシェ918よりも電気で走る距離が長く、ひときわ魅力的なインテリアを持つ。プラグインで充電することも可能で、約2時間でフル充電される。ただし、重量バランスの変化や、ハイブリッド走行でも8.3L/100kmの低燃費であることから、ほとんどのオーナーが自宅のガレージに充電器を備えているという。

McLaren P1
全長 4,588 mm
全幅 1,946 mm
全高 1,188 mm
ホイールベース 2,670 mm
車両重量 1,395 kg
エンジン形式 V型8気筒 ツインターボ
総排気量 3,799 cc
最高出力 737 PS / 7,500 rpm
最大トルク 720 Nm / 4,000 rpm
電気モーター最高出力 179 PS
      最大トルク 260 Nm
合計最高出力 916 PS(737 PS + 179 PS)
合計最大トルク 900 Nm(720 Nm + 260 Nm)
トランスミッション 7速 SSG
タイヤサイズ F: 245/35ZR19 R: 315/30ZR20
車両本体価格 96,615,000 円
■問い合わせ先
・マクラーレン東京 TEL: 03-6438-1963 http://www.tokyo.mclaren.com
・マクラーレン大阪八光 TEL: 06-6121-8821 http://www.mclaren-hakko.com


text: Thomas Geiger / Y.Kimura
editing: Yumi Kawabata
photo: McLaren
special thanks: McLaren
Perfect BOAT 2014年4月号掲載]/※データは掲載時のものです