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ASTON MARTIN Vanquish 合言葉は「007」。ロンドンから北西に1時間ほどクルマで走り、とある個人所有のマナーハウスの門前で停まった。運転手が予め知らされていたその番号を押すと、重厚な門の扉が開く。アストンマーティンの最上級GTを披露する舞台として、相応の洒落を効かせた演出に遭遇する――。その先に待ち構えるのは、そう新生ヴァンキッシュだ。アストンの生まれ故郷、英国を舞台に川端由美がテストドライブ。そのレポートをお届けする。

ASTON MARTIN Vanquish_3 英国としては珍しいほどの青空の下、午後の陽射しが降り注ぐ中庭に新型ヴァンキッシュが佇んでいた。ひと目見た瞬間、息を呑んだ。6月にイタリア・コモ湖の畔で開催されたヴィラ・デステで目にしたコンセプトカー「AM310」と寸分たがわぬスタリングは、およそ市販車のものとは思えない。2001年に発表された初代ヴァンキッシュ、その後継としてデビューした「DBS」の系譜を継ぐモデルではあるが、外観はむしろ77台の限定で生産されたスーパーカー「One-77」に近い。繊細なステイのミラー、LEDで縁取りされたランプ類といったディテールだけではなく、絞りこまれたウェストラインからリヤフェンダーに向かうグラマラスなスタイリングまでもが限定生産のモデルであるかのように作り込まれている。
 全長×全幅×全高=4,720×2,067×1,294mmのスリーサイズはDBSと比べて大幅に拡大されたわけでもないが、低く寝かされたルーフの中には、想像以上にルーミーな空間が広がっている。サイドサポートが張り出したスポーティなドライバーズシートには繊細なステッチが施されており、英国の伝統あるスポーツカーメーカーの気品を感じさせるとともに、適切なサポート感とリラックスした掛け心地を両立させている。2シーターを基本とするが、2+2を選ぶこともできるし、当然ながらシート地やパネルは幅広いオーダーに対応する。
 眺めているだけで時間を費やしてしまいそうになるが、このクルマの真価を知るには存分に走らせてみるべきだ。クリスタル製のキーを受け取って、エンジンフードの下に潜むV12ユニットを目覚めさせる。英国のカントリーロードをドライブする程度なら最高出力573ps/最大トルク620Nmを発揮するV12ユニットを7,500rpmのレブリミットまで回さなくても十分なトルクを得られる。シーケンシャルで6段変速ができるタッチトロニック2の躾が良く、滑らかにシフトアップしてくれる。しなやかな足周りのおかげもあって、あくまでジェントルなサルーンのような乗り味である。

ASTON MARTIN Vanquish_2 ところがステアリングホイール上のSボタンを押してアクセルを踏み込んだ途端、紳士の仮面を脱ぎ捨ててスーパースポーツカーの顔をあらわにする。エンジン回転数の高まりと共に強大なトルクが湧き上がり、0-100kmを4.1秒でこなす俊足ぶりを発揮する。前後共にダブルウィッシュボーン式を採る足周りは、ノーマルでは乗り心地を両立させた、ほどぼどに固められた設定だが、センターコンソール上のボタンで設定を変更すれば、瞬時にハイスピードドライビングに対応すべく足周りを固める。その変化に応じて自らの内部にアドレナリンが湧き上がるのを感じたら、ステアリングホイールの背後にあるパドルシフトを使って積極的に操りたくなること必至だ。
 高い速度で大きなコーナーに進入しても、ボディはみしりとも揺るがない。同社のDNAであるVHモノコックボディにウェルボンディングやテーパードブランクなどの新技術を取り入れ、さらに大型ボディパネルをCFRP製とした第4世代VHモノコックボディを採用したことで、ねじり剛性が3万Nm/degへと高められた。加えて、徹底的な軽量化を施し、重心を低めることで燃費性能とスポーティネスの両面で効用を得た。最もスポーティな設定では突き上げが強烈になるがゆえに、ローンチコントロール機能とともにサーキット専用と割り切るべきだろう。
 ひとしきり試乗を終えて、エンジンと共に自らもクールダウンさせる。電子仕掛けが横行する現代において、ドライバー自ら「感じて、触れて、コントロールする」ことができるスポーツカーが生き残っていることに大きな喜びを感じる。当然、アストンマーティンも現代のレベルの安全技術を纏うが、あくまでドライバーをサポートする立場として脇に控えている。まるで有能なバトラーのように。
 普段は大人2人がリラックスできる室内空間と、週末旅行に必要なだけの荷室を備えるGTとして紳士的な振る舞いをしつつ、いざとなれば大トルクを発揮するV12が咆哮をあげて瞬く間にスーパースポーツカーに変貌する。そしてドライバーが求めるなら、ハードなサーキット走行にも応じる備えがある。
 困難な課題を現実のものにできた理由は、デザインと技術の両面で最良のものにアクセスする努力の積み重ねである。彼らは、ゲイドンの新工場で最新テクノロジーを取り入れた新型車を送り出すと同時に、伝統の地であるニューポートパグネルにてレストレーション部門を強化することも怠らない。今の時代に英国の小さな自動車メーカーが独立性を保ち、創業から99年の歴史の中で最も健全な経営状況にあるのは、すべての面で顧客がこのブランドと長年交わしてきた約束を受け継ぐ努力をたゆまず続けているからにほかならない。

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ASTON MARTIN Vanquish
全長 4,720mm
全幅 2,067mm
全高 1,294mm
ホイールベース 2,740mm
車両重量 1,739kg
エンジン形式 V型12気筒DOHC
総排気量 5,935cc
最高出力 573ps /6,750rpm
最大トルク 620Nm(63.2kgm)/5,500rpm
トランスミッション 6段オートマチックトランスミッション(タッチトロニック2)
タイヤサイズ(F/R) F: 255/35 ZR20 R: 305/30 ZR20
車両本体価格 31,500,000 円
■問い合わせ先
http://www.astonmartin.com


text: Yumi Kawabata
photo: Aston Martin Lagonda
http://www.astonmartin.com
[Perfect BOAT 2012年12月号掲載/]/※データは掲載時のものです]