英国海軍からチャーターヨットまで様々な船を渡り歩き、これまで30万海里以上にもなる航海経験をもつキャプテン・ナイジェル。現在はマイアミに居を構え、世界のトップセレブリティを相手にチャーターやコンサルティングを手がける彼が、独自のネットワークでつながるメガヨットの世界を紹介する。壮大かつ華麗な、メガヨットワールドをご堪能あれ。

 ROSSINAVI(ロッシナビ)が好きだ。無駄に着飾ることなく、非常に印象的なヨットを創り上げるクールな造船所だ。
 意表をついたスタイルでいつも驚かせてくれるROSSINAVI。最近進水した「オーロラ」は、若いオーナーのために造られたスマートで未来的なスポーツヨットだった。その前の「タランセイ」は、1900年代前半のスタイルを再現したクラシックなヨットで、去年モナコヨットショーでお披露目された50mの「フライング・ダガー」は、これまた一味違ったスタイルだ。
 「フライング・ダガー」はスピードを追求したヨットだ。特別な船体構造のおかげでトップスピードは31ノットも出る。クルージングスピードも24ノット以下にはならないというのが驚きだ。

 このヨットのオーナーが以前所有していた2隻も速かったが、短距離しか航行できなかった。それとは逆にこの「フライング・ダガー」は、高速で滑走できるだけでなく、航続距離が3,300マイルと長距離航行も可能だ。
 ROSSINAVIはノイズ・バイブレーション対策に多大なる努力を費やしてきた。「フライング・ダガー」は3基のMTU 16V 2000メインエンジンとロールスロイスウォータージェットがあるのにも関わらず、ノイズレベルは驚くほど低い。ヨット全体に施された本格的な防音加工が、驚くほど効果的にノイズを防いでくれる。

 スポーティなアウトラインが特徴的な「フライング・ダガー」の外観は、この50mスーパーヨットのパワフルなパフォーマンスを映し出している。スリークな上部構造につながるハルのラインはアグレッシブで力強く、GTクーペを彷彿させてくれる。
 メインデッキ上にあるスペースをふんだんに使ったコックピットの後方には、4人掛けのサンパッドに半円形のソファが置かれている。メインサロンへ一歩足を踏み入れると、そこは一転して床から天井まで張られたガラスが眩しく、スポーティな外観にふさわしいミニマリズムなインテリアに目を奪われる。
 巧妙に作られたオープンなサロンには、ほぼ円形のソファに肘掛け椅子とテーブルが置かれているが、なんとダイニングエリアがない。というのも、このヨットの至る所に食事ができる場所があるからだ。サロン前方にあるロビーには三つのデッキを繋げてくれる螺旋階段があり、通路前方にはオーナーズスイートがある。

 幅の広い廊下を歩いていると内部構造が最大限に生かされているのが分かる。これぞ賢いプランニングのおかげだ。そして、オーナーズスイートこそが、このヨットのミニマリズムをもっとも表している場所だろう。書斎がある入り口は、ドアを閉めるとプライバシーを完璧に守ってくれる。その前方にはベッドルームがある。左舷には大きなテラスがあり、そこからの眺めは圧巻だ。男女それぞれのバスルームはさらに前方にある。


 ロアデッキにはゲストキャビンとバスルームがあるが、そこでもこのヨットのミニマリズムを感じることができる。このヨットを探索してみると、これらのキャビンはベッドタイムのみに使われるという強い意識が伺える。
 アッパーデッキもミニマリズムが支配する。スカイラウンジには心地良いフットレスト付きの椅子が6脚のみだ。椅子のレイアウトはオーナー次第。ビジネスミーティングなどの目的で向かい合わせにしたり、大型プラズマスクリーンでの映画を楽しむために並べ替えたりもできる。もっとスペースが必要な場合は、スライディングドアを開けるとインドアとアウトドアを融合させることができる。デッキには12人掛けのダイニングテーブルがフライブリッジ下に置かれてい

 このヨット最大の見所は、その広大なスペースを生かしたミニマルな造りだ。最大数のゲストが乗船しても十分に過ごせるスペースがあり、巨大なレーダーアーチが日除けとなってその下で太陽を気にせず食事を楽しむこともできる。
 さらに、このヨットで一番のリラックスできるアウトドアエリアはフォアデッキだ。このようなスポーティなヨットではかなり広大なスペースがフォアデッキに設けられている。このエリアももちろんダイニングエリアとしても利用可能。電動式の屋根でプライバシーの確保も厳重にできるのが嬉しい。
 もちろん、このヨットの利点はデザインや構造、最新のエンジニアリングだけではなく、オーナーお墨付きの9名の素晴らしいクルーがフルタイムで乗務していることも挙げるべきだ。
 このヨットは、ROSSINAVIが誇るスタイルを確立させた50mの芸術品だ。ビルダーとオーナーが究極のシンプリシティを追い求めた作品が「フライング・ダガー」なのだ。

text: Captain Nigel Beatty
photo: SANDRO BERTOZZIup
PerfectBOAT 2019年8月号掲載/※データは掲載時のものです]


SPECIFICATION
ROSSINAVI 50m Superyacht “Flying Dagger”
全長 49.9 m / 163 ft 9 in
全幅 8.9 m / 29 ft 2 in
喫水 2.0 m / 6 ft 7 in
重量 499 gross tons
構造 Aluminum
エンジン 3× MTU 16V 2000 M96L
出力 3× 2,600 HP
スピード Max 31 kt / Cruise 24 kt
レンジ 3,300 NM at 12 kt
燃料容量 65,100 L
清水容量 21,000 L
アコモデーション 5 cabins for 10 guests
クルー 5 cabins for 9
ビルダー ROSSINAVI SHIPYARD
建造 2018
ナーバルアーキテクト Arrabito Naval Architects
エクステリア Team for Design
インテリア Lazzarini & Pickering
船級 RINA

PROFILE
Captain Nigel Beatty

ナイジェル・ビーティー:1969年、英国ベッドフォード生まれ。高校卒業後、欧州放浪の旅に出る。その後、英国海軍に入隊。航海術や操船術などを学び、海軍ヘリコプターコントロール専門の管制官になる。5年後、バハマでスキューバダイビングのボートキャプテンとなるべく英国海軍を退役。1997年にヨット界に飛び込み、ヨットキャプテンとなる。英国MCA3000トンのキャプテンライセンスを所持。これまでにメガヨットのキャプテンとして、米国東海岸、バハマ、タークス・アンド・ケイコス、カリブ海、日本、中南米、地中海、インド洋、ペルシャ湾を航海し、航海経歴は30万海里以上におよぶ。現在、ヨットセールス、チャーター、コンサルティング、マリンパーツ販売を手がけるスーパーヨット・ロジスティックスを日本人妻と運営。プロジェクトマネージャー、テクニカルマネージャー、リフィットマネージャーとして数多くの新艇プロジェクトをも手がける。2008年、新人メガヨットキャプテンのインストラクターに就任。2009年には新キャプテン最終試験官に就任し、後輩キャプテンとなる生徒をビシビシと厳しく指導している。スコアはイマイチだが大のゴルフ好きで、2002年のワールド・キャプテン・ゴルフ・トーナメントでは栄誉ある「Wanker of the Year」を受賞。日本語を鋭意勉強中。日本語力は、まともな焼酎を注文したり、間違えずに電車に乗れるくらいに上達した。

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