「Rybovich is Rybovich」と言わしめるRYBOVICHの歴史と芳醇なマリタイムレジェンドを求め、スポーツフィッシャーマンの源流を訪ねた。フロリダはパームビーチのウォーターフロントの馥郁たるマリン文化に触れながら、1949年 Hull #2、現存するRybovichの中で最古老の「CLARI-JO」、現「LEGEND」を詣でる。更に新たにリスタートを切った「Michael Rybovich & sons」に見たRybovichの未来。それはカスタムスポーツフィッシャーマンの煌きを確信する巡礼となった。

Built in 1949. 現存する最古のRYBOVICH Hull#2 “LEGEND”
今を生き続けるミントコンデションのヴィンテージ


 スペイン語のフロールから来るフロリダは全域花と水の都でもある。フロリダいちのハイエンド・ウオーターフロントレジデンシャルエリアといえば、マイアミから北100kmのパームビーチ。1947年に1号艇34フィートの「Miss CHEVYⅡ」ライボヴィッチが生まれ、スポーツフィッシャーマンの源流となった耀かしい聖地だ。
 この歴史的な艇は1986年に解体されてしまい、ハルナンバー2、37フィートの「CLARI-JO」、現「LEGEND」、1949年進水の艇が現存する最もヴィンテージな艇となる。まさに歴史遺産を訪ねる旅の途中だ。



 20世紀初頭、無数の自然なラグーナを生かし人工的に開発された富裕層向け別荘地&リゾートとして、その名は全米に響いていた。その名のとおりパームツリーの並木道がシンボリックだ。1930年代から豊かなマリタイム文化が花開き、ビルフィッシュトーナメントを楽しむ実業家、セレブリティ達がいたこと。へミングウエイ然り……。ライボヴィッチが誕生する背景の一片鱗が理解できる。熱帯モンスーン気候故冬でも暖かく、リタイア後の人生の理想の地であることは流れる空気と肌に感じる佇まいで感受する。
 エントランスセキュリティの厳しいレジデンスゾーンを入ると、透き通る青空の下、鳥の鳴き声とジャカランダの赤にパームツリーの濃厚な緑が放つ色彩の豊かさに圧倒される。その中にポンツーン付きの瀟洒なリゾートビラが並び、ここがマリンライフを好むリタイア富裕層のパラダイスであることが分かる。ここでハルナンバー2のライボヴィッチに会う。その期待は、初恋の美形に逢う興奮で夢と現の間にいるようだ。



 初対面なのにまるで旧友に会うかのように屈託のない笑顔で、オーナのLarry Mullins氏がビラの前で我々を出迎えてくれた。簡単な挨拶を済ますとさっそくフネに行こうと導いてくれる。レジデンスを抜けるとプールがある。その背後にカナール……。そこにまごうことなく資料写真でしか観たことのないハルナンバー2が佇んでいる。まるで夢を見ているようだ。
 細身で繊細な真っ白なハル、チークの濃いブラウンのガンネル、ボンネットサイド、3ピースのフロントウィンドウ、後退したフライブリッジ、このフネで初めて採用されたライボヴィッチを語るシンボル、ダブルハンドレール。吸排気用の片舷2基の丸いファンネル、喫水下のミントブルーカラー、アフトの緩やかなタンブルフォーム……。燐として伸びやかに跳ね上がるシアーライン。カスタム艇の定番、ブロークンシアーラインは1952年誕生のハルナンバー8「Miss CHEVY Ⅳ」に始まるが、この「LEGEND」の清廉とした美しさは観るものの心を打つ。



 すでにスプレッダー付きのアルミ製アウトリガーを持ち、Cピラーにはフライブリッジへのサイドステップが2段。オールドライボヴィッチのスタイルだ。コックピットに入る。チークのフロアはそのままキャビンまで一体化し、オープンキャビンの開放感に満ち溢れている。右舷にファイティング時やドッキングに使われるパームビーチスタイルのロアヘルムがある。ニスが積層されたポッドはそのままキャビンのキャビネットとCピラーに癒着し、同色のファニチャーやサイドウォール、右舷のダイネッティテーブル、フォワードキャビンとのバルクヘッドと色彩の一体化が計られ、造詣的にも極めて美的だ。サロンは左舷に一条のソファ、右舷にダイネッティが設えられている。上質な趣が漂っている。
 コックピットのデリックポールも力強い姿を見せる。サロンを3段降りる先のフォワードキャビンも至ってシンプル。右舷にシンクと2バーナーのガスコンロを持つギャレーがある。新たに冷蔵庫が隠れ住む。左舷にヘッドが用意される。Vバースも飾りなく、シンプルイズベストのサンプルのよう。



 フライブリッジは2人が座れるベンチシートとメインヘルムステーションがあるのみ。3本スポークのアルミ製ステアリングホイールが映えるポッドはキュートな佇まいを見せる。もちろんチークにニス積層のピアノコンデション仕上げ。濃いブラウンの同色がコンソール全域を占め、左右のダブルハンドレールに広がる。ポッドから生える右サイドのレバーは右舷エンジン、左サイドからのレバーは左舷エンジン、ビルフィッシュやツナとのファイト時にキャプテンが後ろを向き後進をかける所作のし易さ。これぞ元祖パームビーチスタイル。資料からではなく1949年生まれのこのフネの存在は、ライボヴィッチのいやスポーツフィッシャーマンの歴史遺産であることが確信できた。
 ポッドのコンソール上には回転計、油温、油圧、水温、燃料計等アナログのエンジン関連メーターが並んでいる。新しくセットされたのはノーザンスター6000iのGPSプロッターが左舷のチャートストレージに隠れている。後は白いオーニングのみと言う。それにしても65年前のフネがヒストリックカーで言うところのコンクールコンデション、つまりミントコンデションに仕上げられている。それが素晴らしい。



 初代から14代目のオーナーになるLarryさん、とても穏やかな気取らず優しい方だ。御歳68歳、建設用瓦材で財を成し遂げリタイヤ後、家業は息子さんが継いでいるとの事。昨年は奥方と、Okochabielウォーターウェイで西海岸まで2週間、この「LEGEND」で往復したというから驚く。1日平均145マイル走行したと。購入したのは2009年、ライボヴィッチの生みの親の系列 Michael Rybovich & Sonsでフルレストレーションをかけている。1989年~1990年にもレストレーションが施されていると。

 現在の搭載エンジンはカミンズ300hp×2基。アワー1,225時間。ジェネレーターは5kW-Westerbeke。初代オリジナルエンジンはトラックやバスで知られるFagoel marin Engine ガソリン仕様で200hp×2基。その後は Sccipps Engines ガソリン仕様 225hp×2基。Cliysler Engine Hemi ガソリン仕様 275hp×2基。GM Engines ディーゼル仕様 260hp×2基。そして現在の Cumminz ディーゼル仕様 300hp×2基というエンジンの変節の歴史がある。
 ところでこの「LEGEND」、初代オーナーTony Accardoはシカゴマフィア、アウトフットの大ボスだった。アル・カポネのヒットマンだったこともある。趣味の釣りがツナ釣りまで広がり、ビッグ・ツナと言うニックネームで呼ばれるほどだったとか。ツナファイターとしてこれを建造したのだ。なんともな歴史だがハルナンバー2の美しさに微塵も影はない。



 ノースパームビーチ・ウォーターウェイに面するカナールが入り込むLarryさんのレジデンス前から試乗に出かけることに。スターター一発で瞬時に始動するエンジン。メンテナンスの良さが分かる。動き出しから、水面を浮輪を付けて浮いている癒るい感触がある。カナールを抜けレイクワース川にでるとLarryさんはヘルムをすっと代わってくれた。

 左右のスロットルレバーでレブカウンター800rpmに合わせる。6.0ノット。ヘルムに立つとチークのフォアデッキと先端のライボフラッグが誇らしげに眼に入る。途中Michael Rybovich & Sonsのヤードを右に見て、A1Aが通る橋の手前でアウトリガーを開き潜り抜ける。橋の開閉を待つまでもない。
 速度制限のない広大な海域にでる。まだ左にはパームビーチの砂州が広がりその先が大西洋だ。パームビーチインレットを抜ければアトランティクオーシャン。外洋には出ないでこの海域で試乗することに。撮影艇は贅沢にライボヴィッチ36 ハルナンバー58「SAM Ⅴ」。撮影艇も煌いている。1,000rpm-7.5ノット。1,500rpm-10.8ノット。言わば平水域、綿アメの上を歩くような得もいわれぬ感触がある。両舷スロットルを丁寧に入れていく。バウアップする間もなくプレーニングしている。

 1,800rpm-15.3ノット。2,000rpm18.5ノット。転舵してみる。ハイドロアシストのステアリングは適度な重さを持つが軽やか、ホンの少しインサイドバンクを伴って回り始める。クルマで言うところのニュートラルステア。その感触は、自分の立つ位置を中心に全ての動きが始まり収束するバランスの良さが快感として伝わってくるのだ。いつの間にか伝説のフネを操っていることも忘れ、撮影のために定常円旋回して生まれた波の中に突っ込んでいくが平穏さの中に全てが収束してしまう。



 オールマホガニーのホットモールドハルの強靭さ、Tommy Rybovich設計のハルの完成度の高さを改めて知らされたのだ。スポーツフィッシャーは走る姿もエレガントでなければならない。あらゆる状況に耐えなければならない。それこそかの時代のシカゴマフィアの大親分の要求に応えねばならなかっただろうし、それに応えた「CLARI-JO」はいとおしさを遥かに超えたプライドを手に入れたに違いない。そのプライドが「LEGEND」に引き継がれ開花している。
 Larryは(ラリー、ケンジといつの間にか呼び合っていた)「最高速テストしてみよう」と提案してくれた。2,200rpm、Larryのいつものクルージング時の回転数だと。速度20ノット。スロットルを更に入れていく。更に上の回転域はスムーズさを増していくではないか。雲上を滑走するようなフライト感覚は得もいわれぬ快感を呼び起こしてくれる。
 ライボヴィッチ・エクスタシー!。MAX27.5ノット。Larryがこぼれそうな笑顔を見せる。「また来いよ、ロングクージングに一緒にどうだい……」。Thumbs up!で答えた。

 パームビーチの青空の元で、Larryと共にすばらしいラグーナのマリタイムを生き生きといきる65歳のRYBOVICH Hull#2「LEGEND」。改めてRYBOVICHの放つ馥郁とした人とフネのマリン文化の濃密な関係に感銘を受けた。やはり「Rybovich is Rybovich」。 P.B.




RYBOVICH 37 “Legend”

Hull # 2
Length 37 ft
Built 1949
■RYBOVICHに関する問い合わせ先:ハウンツ
 TEL: 045-778-1532 
http://www.haunts-bs.net

text: Kenji Yamazaki
photo: Makoto Yamada
special thanks: Mr. Larry Mullins [owner]
Michael Rybovich & Sons Boat Works
http://michaelrybovichandsons.com
HAUNTS BOAT & SERVICE
http://www.haunts-bs.net
[Perfect BOAT 2014年9月号掲載]/※データは掲載時のものです]