インフレータブルボートと言えば、湖の小型船外機付きボートやレスキューのゴム製ボートが思い浮かぶ。ところが、近年、メガヨットの豪華テンダーとして使われるだけではなく、地中海マリタイムカルチャーでは新たな潮流として、インフレータブルボートがフェンダーレスのプレミア・スポーツボートとして注目を浴びている。その中心がイタリアの「SACS」。お洒落なテーラーメイド、ビスポークのスポーツボートとして 人気なのだ。



60フィート、MAN V8 1,200馬力×2、アーネソン・サーフェスドライブ、MAX55ノット!
イタリアのマリン文化が創り出した、痛快極まりないスーパーラグジュアリーRIB


 1989年、ミラノに設立された「SACS(サックス)」。自動車のチームABARTHやLANCIA、FERRARI、JAGUARのトリビュートモデルも存在する程、インフレータブルボートのイメージを斬新な存在に一新してきたインフレータブルボートの革命児と言える。8m、9m、10m、11m、12m、13m、15m、18m、19mのSTRIDERシリーズに、アウトボード艇のS700、S780、S900スポーツクラスのバリエーションを誇る。 全てのデザインは今勢いに乗るCHRISTIAN GRANDE。プレミアム感溢れた強烈な個性がスタイリッシュなフォルム を生み出している。

 特に試乗テストをした「Strider 19」のスタイリングは、インフレータブルボートの概念を超越している。全長18.10m、全幅5.30m、船体幅4.50m、ドラフト1.10m。ロープロファイルなオープンエクスプレスのフォルムだが、ハルを取り巻くチューブが、スタイリングのアイコンとしてものの見事に生かされている。なんといっても、MAN-V8-1,200hp×2基に、アーネソン・サーフェスドライブASD12を組み合わせた60フィートのインフレータブルボートなのだ。更にその装備は通常のオープンエクスプレス艇を凌ぐエレガントな設えを持つのだから。



 ギャングウェイから乗り込んでみる。チークの広いスイミングプラットフォームの下にアーネソン・サーフェスドライブユニットが隠れている。そのスイミングプラットフォームの高さのままアフトデッキが続く低さに気分は高揚する。アフトデッキは、両舷にダイヤモンドクロスのステッチが活きるサンベッドが敷かれ、前方のラウンジエリアにはラウンドしたL字ソファにチークのテーブルが用意される。その前方のヘルムコクピットの間にウェットバー、冷蔵庫、キャビネット、バーベキューグリル等のエンターテイメントギアがスタンバイしている。もちろんフロアは、サンベッドを持つバウデッキまで、チークが繊細に貼り込められている。

 ヘルムコックピットは、ラップアラウンドしたフロントスクリーンとスライドドアを兼ねるサイドウィンドウに囲まれ、ボルスタータイプの4脚のシートと機能美溢れたコンソールがスパルタンかつエレガントな趣を醸し出している。粋なIsottaマリンのCellini 4スポークステアリングにオレンジの本革の貼られたコンソールのオシャレなこと。上部のブラックインスツルメントには2面のGPSプロッター&エンジンモニター、その中央から下部にはエンジンアナログメーターが整然と並び、ステアリングポスト左手にドライブユニットのアップダウンスイッチ、トリムタブスイッチが配される。その下にはバウスラスタータブがある。ポスト右手に整然と縦に並ぶスィッチ類、ZFエンジンコントローラー 、コンソールのブラック&オレンジ、パイロットシートのオレンジ、スパルタンとエレガンスが高密度で融合する。



 当然この60フッターリブにはゴージャスなナイトエリアが用意されている。コンパニオンウェイを前方に降りると、バウにクリスタルカットの両舷ウィンドウから採光豊かなオーナーズステイトがある。キングサイズベッドにクローゼット、パウダールームもデザインホテルの様に爽やか。ブラウンにトーンコントロールされた室内は大人の趣が漂う。ミジッブのゲストルームにもキングサイズベッドが用意され、オーナーズステイト同様の仕様が施されている。ダウンギャレーの対面のダイネッテイは折り畳み式ベッドにもなる。充実したロアフロアを持つこのリブ、そもそもはメガヨットの高速テンダーとして開発された経緯があり、興味深い。メガヨットオーナーのハイセンスが生み出したオープンエクスプレス艇の新ジャンルとして注目を浴びているのも理解できる。

 チューブ素材はネオプレーンとハイパロンのハイテク複合素材を5層積層し、6箇所のブロックに分けてチューブを形成している。それだけの浮力構造物をニュージーランドのNAIAD設計になるFRPのディープVハルに巻き込んでいるため不沈と言える。低重心、軽量、ハイパーエンジン、ディープVハル。ハイテクリブ、ミリタリーやレスキュー艇は当たり前、それを近未来的フォルムと粋な設えで仕上げたのがデザイナーのCHRISTIAN GRANDEだから頷ける。リブカラーのシルバー&ブラックハルも同色、ボンネットやレーダーアーチのブラック、それにデッキのチークのブラウン、サンベッドやヘルムシート、コンソールのオレンジ、色遣いにもハイセンスが光る。



 地中海、それもコート・ダジュール沖でのテストは、得てして冷静さを失っていることが多い。その環境の肌会いの良さにはまりこんでいるからだ。ヘルムのスライドドアを締めると、スーパースポーツGTカーのドライバーズシートに座ってコースインする時のような小気味良い緊張感に包まれる。ポート内アイドル600rpm-7.5ノット。速い。ポートの外にアンカリングしているフネを避けながら1,000rpm-9.0ノット、1,500rpm-11.5ノット。スロットルを押し込む。ターボ領域に入ると一気に船速があがる。バウアップはフラップを操作することなく一瞬で下がり、下げていたアーネソンドライブユニットのアップボタンを押す。ユニットはほぼ水平位置。更に前進加速が加わり1,800rpm-31.5ノット、1,870rpm-34.7ノット、2,000rpm- 38.4ノット。2,163rpm-43.8ノット。ほんの20秒以内で40ノットオーバーの実力は痛快極まりない。



 ターンを試みる。軽いステアリングを切り込むと、まるで自分の腰を中心にインサイドバンクが始まりイメージどおりのトレースを始める。振りかえると、アフト後端のリブチューブがスタビライザーの役を果たしながら、ラテラルスタビリティを保持した安定感を伝えてくる。もちろんアーネソン・サーフェスドライブユニットは水平なフルアップ状態、アフトデッキはまるで水面と一体化したような低い位置にある。全てが水面に近い! 初めて体験する興奮だ。サーフェスドライブが巻き上げる水煙、銀ギツネの尾、ルースターテールは太陽をいっぱい浴びて煌めいている。最高速を試みる。天気晴朗だがチョッピーな波とうねりがあるが不快なピッチングは皆無。MAX2,300rpm-45.5ノットを維持している。すっかりインフレータブルボートの虜になってしまった自分がいる。荒天時やタフな海象に強く、不沈かつローリングに対してスタビライザーの役を果たすリブチューブの頼もしさ、ハイテックな装備とエレガントなインテリア、おそらくは2億円を超す価格になるこの「SACS Strider 19」。湘南はもちろんだが、日本のアーキペラゴ、瀬戸内海で遊ぶにジャストフィットだと思うが、いかがかな。 P.B.





SACS Strider 19
全長 18.10 m
全幅 5.30 m
喫水 1.10 m
重量 25.0 ton
燃料タンク 2,000 L
清水タンク 300 L
エンジン 2× MAN V8 – ARNESON ASD12
最高出力 2× 1,200 HP
■問い合わせ先: リブポート
TEL: 080-2261-0871
Email: info@ribport.com

text: Kenji Yamazaki
photo: SACS, Kai Yukawa
special thanks: SACS S.R.L.
RIBPORT
http://ribport.com
[Perfect BOAT 2016年5月号掲載/]/※データは掲載時のものです]