英国海軍からチャーターヨットまで様々な船を渡り歩き、これまで30万海里以上にもなる航海経験をもつキャプテン・ナイジェル。現在はマイアミに居を構え、世界のトップセレブリティを相手にチャーターやコンサルティングを手がける彼が、独自のネットワークでつながるメガヨットの世界を紹介する。壮大かつ華麗な、メガヨットワールドをご堪能あれ。

 今月は、私がモンテカルロ号のキャプテンとしてヨーロッパをクルーズしていた6年前に遡ってみようと思う。
2004年の夏にフランスやイタリアの洒落た港を巡りながら地中海をクルーズしていると、黒くスリムな船が、稲妻のように海面を走り抜けていく光景をたびたび目にしていた。私はそのたびに、今まで見たことのないそのミステリアスな風貌のヨットに、次第に興味を持つようになっていた。
「あれはウォリーの新艇ですよ」とファーストメートのスティーブが教えてくれたが、私はそれが信じられず、「いや、そんなはずはないだろう。ウォリーは帆船を作る会社なはずだ」と答えた。だがやはり、そのミステリアスな船はウォリーだった。しかも、新型のウォリー、Wally Power 118だった。

 幸運にも私は、この118フィートのウォリーパワーをモナコの海で見ただけではなく、ウォリーヨットの社長、ルカ・バッサーニ・アンティヴァーリ氏から直接、実際に乗ってみるチャンスを得ることが出来た。ルカは画期的な帆船のデザインで既にヨット界では伝説的存在になっており、そのためか私は、まるで長年彼のことを良く知っているような気分だ。もちろん彼は私のことなど全く知らないわけだが、彼は海に対する情熱を持ち合わせた実直な48歳のイタリア人だ。そんな彼が、この新しいウォリーパワー118を私に見せてくれた。

まるで近未来SF映画の一部のようなウォリーパワーの外観。2つあるそのナビゲーションコンソールのうち一方の前に立ち、3基のウォータージェット推進機をスタートさせる。そしてモナコハーバーの出口を優しく操縦しながら8〜9ノットで抜けて行く。
その10秒後、一切の振動も感じることなく、私は水平線上を35ノットで走っていた。彼はさらにスロットルを前にプッシュして、118フィートのスリムな船体を楽々と、一切の苦労を感じさせないままスピードを上げる。
45ノット、50ノット。海岸線を抜けると、風にあおられた波が南西からやってきた。しかし、まるでナイフの先のような船首がいとも簡単に波を切り分け、船首からの縦揺れも吸収する。実に快適な乗り心地だ。クルージングスピードが55ノットに差し掛かると、ルカは船を大きくターンさせた。私はすかさず、ビームが波に乗ることによって起こるであろうローリングに備えて、しっかりと構えた。
しかし、そんな私を見て、ルカは笑った。独特なハルの構造がスムーズな乗り心地を作り出し、たとえ急激な変化であっても、この船なら全く構える必要はないと……。(続きは雑誌で)

photos: Wally Yachts
text: Captain Nigel Beatty
[OceanStyle Perfect BOAT 2010年8月号掲載/※データは掲載時のものです]
WALLY POWER 118
全長 36 m
全幅 8 m
喫水 1.25 m
重量 95 ton
推進システム 3× 5,600hp DDC TF 50 Gas Turbine
2× Cummins 370hp diesel
ウォータージェット KaMeWa 2× 63, 1× 52
航続距離 380 nm @ 65 kt
800 nm @ 45 kt
2,000 nm @ 9 kt
燃料タンク容量 22,000 L
清水タンク容量 1,200 L
バウスラスター Max Power 45OR
発電機 2× 33kw Kohler
ハル GRP, plus glassfibre/carbon composite
船級 RINA/DNV
アコモデーション 6 guests(1 Master stateroom + 2 VIP rooms)
3 crew cabins for 6 crew
発電機 3× MTU 8V 2000 M50A, 308ekW

Captain Nigel Beatty

 ナイジェル・ビーティー:1969年、英国ベッドフォード生まれ。高校卒業後、欧州放浪の旅に出る。その後、英国海軍に入隊。航海術や操船術などを学び、海軍ヘリコプターコントロール専門の管制官になる。5年後、バハマでスキューバダイビングのボートキャプテンとなるべく英国海軍を退役。1997年にヨット界に飛び込み、ヨットキャプテンとなる。英国MCA3000トンのキャプテンライセンスを所持。これまでにメガヨットのキャプテンとして、米国東海岸、バハマ、タークス・アンド・ケイコス、カリブ海、日本、中南米、地中海、インド洋、ペルシャ湾を航海し、航海経歴は30万海里以上におよぶ。現在、ヨットセールス、チャーター、コンサルティング、マリンパーツ販売を手がけるスーパーヨット・ロジスティックスを日本人妻と運営。プロジェクトマネージャー、テクニカルマネージャー、リフィットマネージャーとして数多くの新艇プロジェクトをも手がける。2008年、新人メガヨットキャプテンのインストラクターに就任。2009年には新キャプテン最終試験官に就任し、後輩キャプテンとなる生徒をビシビシと厳しく指導している。スコアはイマイチだが大のゴルフ好きで、2002年のワールド・キャプテン・ゴルフ・トーナメントでは栄誉ある「Wanker of the Year」を受賞。日本語を鋭意勉強中。日本語力は、まともな焼酎を注文したり、間違えずに電車に乗れるくらいに上達した。

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